ASEAN和平プロセスをめぐり対立が激化。フィリピン議長国の特使が民主派批判者を「悪意ある」と反論する一方、民族武装組織連合SCEFは軍政の和平誠意を全面否定した。また中国が主導するミッソネダム再開計画に対し、市民社会が全国規模の抵抗を呼びかけた。日本のインフラ支援・ODA政策にも直結する3本を選んだ。
2021年4月にASEANが採択した和平ロードマップ。①暴力の即時停止 ②建設的対話 ③ASEAN特使の仲介 ④人道支援 ⑤特使の全利害関係者との面会——の5点から成るが、軍政は帰国後から全項目の実施を拒否し続けている。日本は独自外交と連携しながら、この枠組みの実効化を支持してきた。
民主派・民族武装組織側は「軍政と席を同じくすること自体が正統性付与につながる」と批判。一方、ASEAN側は「対話なしに解決はない」という立場を維持している。日本も非公式ルートで軍政・民主派双方に接触してきており、ASEANのアプローチの行方は日本外交にも影響する。
日本は2023年以降、ASEAN和平プロセスへの支持を表明しながら独自の関与を模索している。ASEANが軍政と直接対話を続けることで、日本のODA再開検討や二国間経済協力への圧力が高まる可能性がある。ミャンマー人材を採用する日本企業にとっても、政治的正統性をめぐる国際環境の変化は経営リスクとなりうる。
KNU(カレン民族同盟)、KNPP(カレンニー民族進歩党)、KIO(カチン独立機構)、CNF(チン民族戦線)など、長年の歴史を持つ有力民族武装組織の連合体。2021年クーデター後に結成され、NUG(国民統一政府)とも連携する。この連合が軍政との対話を全面拒否していることは、和平プロセスの根本的課題を示している。
声明が指摘する「地方での自治的統治」の拡大は、ミャンマーの政治地図が根本的に変化していることを意味する。複数の地域では抵抗勢力が税収・行政・治安を管轄しており、軍政支配は都市部・幹線道路周辺に限定されつつある。これは戦後復興段階での日本の関与先が複数化することを意味する。
日本政府はこれまでASEAN枠組みを通じた対話を支持してきたが、SCEFが対話を拒否している現状では枠組みの実効性に限界がある。ODA再開・企業進出を検討する日本にとって、誰が実効支配者かを見極めることが不可欠となっており、民族武装組織との独自チャンネル構築の必要性が高まっている。
総工費36億ドル規模のこのダムは、中国の一帯一路(BRI)インフラ投資の象徴的案件。軍政は中国の政治的・経済的支援を確保するため、国内反対を押し切って再開を決定した。発電電力の大半は中国へ送電される構造であり、ミャンマー国民への恩恵は限定的と見られている。
エーヤワディー川はミャンマーの農業・漁業・水運の生命線であり、5000万人の生活を支える。下流域はかつて「アジアの穀倉」と呼ばれたアヤルワディー管区を含む。源流部でのダム建設による流量変化・土砂供給減少が食料生産に与える影響は計り知れない。カチン州先住民族の強制移住問題も未解決のままである。
中国がミャンマーの重要インフラを押さえることは、日本の対ミャンマー経済戦略に直接影響する。JICAが支援してきた農業・水資源分野のプロジェクトもエーヤワディー流域に集中しており、ダム建設が及ぼす下流への影響が日本の支援効果を損なう可能性がある。また、西松建設・奥村組等の取引先建設会社がミャンマー事業を再開する際のカントリーリスク評価にも関わる。